日本国憲法は、硬性憲法であるといわれています。憲法改正の要件・手続を厳格な方法で定めているために、このようにいわれます。
憲法第96条で、憲法改正の手続を定めています。国会が、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、憲法の改正を発議し、国民投票で、その過半数の賛成を必要とします。なお、現在はまだ国民投票に関する手続法は制定されていません。つまり、投票権を有するのは誰?過半数の基準は?投票の方法は?などについて、法律で取り決められていないということです。
さて、平成18年度の旧司法試験の論文試験に、つぎのような問題が出題されています。
【憲法】第2問
A市において,「市長は,住民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項について,住民投票を実施することができる。この場合,市長及び議会は,住民投票の結果に従わなければならない。」という趣旨の条例が制定されたと仮定する。
この条例に含まれる憲法上の問題点について,「内閣総理大臣は,国民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項について,国民投票を実施することができる。この場合,内閣及び国会は,国民投票の結果に従わなければならない。」という趣旨の法律が制定された場合と比較しつつ,論ぜよ。
この出題をもとに、「国民投票」について、憲法のおさらいをしてみたいと思います。
まず、憲法の条文上で「国民投票」について定められているのは、第96条【憲法改正の手続】においてのみです。また、第41条【国会の地位、立法権】において、「国会は、国権の最高機関」であるのに、その国会の審議を経ないで、内閣総理大臣が国民投票を実施し、その上、内閣総理大臣が実施した国民投票の結果に内閣及び国会が従わなければならないとすることは、憲法が定める国家機関の役割にズレが生じていると思われます。
そして、第72条【内閣総理大臣の職権】および、第73条【内閣の職務】から、出題文にある「国民投票を実施することができる」のかという疑問も生じます。
なお、憲法前文と第1条【天皇の地位、国民主権】に、主権は国民にあることが定められています。それとともに、憲法前文には「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、」としています。出題文にある「国民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項」について、主権者たる国民の意思を問う「国民投票」であっても、その手続法を定めるにあたっては、「国民の厳粛な信託」にこたえうる方法・手順であってほしいものと思います。
第96条[憲法改正の手続]
1 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法の改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体をなすものとして、直ちにこれを公布する。